、得意にさえ思われてならなかった。そうして、十日二十日と、日がたって行った。
 ところが、このままで済んでしまえば、まず何でもなかったのであるが、ふとしたことから、伝さんと三の字旅行会の案内人との、ひそかな親交を、ブチ破ってしまうような、飛んでもない事が持上ってしまった。
 或る日のこと。赤帽|溜《だまり》で昼飯を食べていた伝さんのところへ、降車口の改札係の宇利《うり》氏が、ひょっこりやって来て、いきなり云った。
「伝さん。お前さんは赤帽の親分だから、知ってるかも知れないが、毎日三時の汽車で一人ずつやって来て、いつも同じ男に出迎えられて行く女のお客さん達があるようだが、知ってるかい?」
「ええ、知ってます」
「どうだい、何かおかしなところがあるとは思わないかね?」
 そこで伝さんは弁当を置くと、口の中のものをゴクゴク呑み込んで、やおら向き直り、
「大有りですとも。三の字旅行会の因縁咄という奴で……。知っているのはこのわしだけ。しかも口止めされているんですが、宇利さんになら、こっそりお話してもよござんしょう」
 もう伝さんは、そろそろ心中の得意を、誰かに聞かせてやりたく思っていた矢先だっ
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