へ、軽く会釈を残して、その日のお客を迎えるべく、到着した列車のほうへ馳け去って行くのであった。
四
伝さんは、この話を四日に亘《わた》って聞かされた。一日一回が、ほんの五分か十分の短い間であったが、それでも伝さんは、不思議な話を聞くうちに、その四日間というものは、まるで続き物の講談でも聞いている時のような、楽しさにひたる事が出来たのであった。
そしてそんなことがあってからは、伝さんと三の字旅行会の案内人とは、急に友達のように親しくなって来た。と云っても、二人が顔を合せるのは、ほんの短い間のことであるし、二人ともそれぞれに自分のお客を持っている体なので、別に毎日親しく話し合うというようなことは出来なかったが、お互いに顔を見合わせるような時には、快よく挨拶しあうようになって来た。伝さんは、その案内人と、その背後にある旅行会と、そしてその会の果報なお客さん達の持っている、いうにいわれぬ劇的な雰囲気の中へ、自分も一本加わっているような気持がした。考えてみれば、伝さんの大勢の仲間の中で、この話を知っているのは、どうやらまだ伝さん一人だけらしい。伝さんは、なんだかそれが
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