やり過して置いて、いきなり手を前に出し、あとから神妙について来て、伝さんへ目で挨拶しながら通り抜けようとした案内人を、ピタリさしとめた。
「一寸、あなた待って下さい。すぐ済みますからこちらへ寄っていて下さい」
 宇利氏は早口にそう云って、手早く案内人を伝さんのほうへ押しやると、もう後の人の切符を忙しく受取りはじめた。
 案内人は急にあわて出した。何か口の中でモグモグ云いながら人ごみの中へ押入るようにしながら入場券を宇利氏の手へ差しつけるようにして、出口から五|間《けん》も向うへ行ったところで後ろを振返って立止っている例の娘のほうを顎で指し、
「お、お客さんの荷物を持ってるんですから、と、とおして呉れなきゃア困るですよ」
 すると宇利氏は、黙ったまま再び案内人を伝さんのほうへ押しやりながら、非常な早さで案内人の手からトランクを取り上げると、伝さんへ、きびしい語調で、
「じゃア伝さん。君この荷物を、あのお客さんに上げて呉れ」
「いやいや、これは私の役目じゃから、私が持って行かねばならん」
「伝さん。早くしてくれ。この方には一寸用があるんだから、荷物は君からお客さんに上げて呉れ!」
 もう向
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