巻《シガーレット》に火を点けて、ソファの肘掛けに寄り掛った。
恰度この時電話室の方でベルが聞え、やがて女中がやって来た。
「どなたか、鳥羽へお電話をお掛けになりましたか?」
「ああ僕です。有難う」
東屋氏は立ちあがって、そそくさとホールを出て行った。
私達はさっぱりわけがわからないので、ホールの中でキョトンと腰掛けたまま、ろくに話しも出来ずに東屋氏の帰りを待っていた。
が、十分程すると東屋氏は、折から後続の警官達が着いたと見えて、私とは顔馴染の警察署長を連れてやって来た。そして満面に、軽い和やかな微笑を湛えながら、
「さあ。これでどうやら、この事件も解決が出来ました。これからひとつ説明を致します。どうぞ別館《はなれ》の船室《ケビン》へお出で下さい。あちらの方に色々材料が揃っておりますから――」
そこで私達はホールを出た。深谷夫人は頭が痛むと云うので主館《おもや》に居止り、東屋氏と私と黒塚、洋吉の両氏、そして署長を加えた五人は、強い疾風の吹き荒《すさ》ぶ中庭を横切って、別館の船室《ケビン》――キャプテン深谷の秘密室《ブラック・チェンバー》へ走り込んだ。
六
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