とうとう、嵐がやって来た。
私達が深谷氏の船室《ケビン》へはいると間もなく、海に面した丸窓の硝子《ガラス》扉へ、大粒な雨が、激しい音を立てて、横降りに吹き当り始めた。
高く、或は低く、唸るような風の音が、直ぐ眼の下の断崖から、岩壁に逆巻く磯浪の咆哮に反響して、物凄く空気を顫わせ続ける。
私達を前にして椅子に腰掛けた東屋氏は、劈《つんざ》くような嵐の音の絶え間絶え間に、落着いた口調で事件の真相を語りはじめた。
「まず、兇行の行われた当時の模様を、大体私の想像に従って、簡単に申上げましょう。――昨晩の十二時頃、恰度満潮時に、海流瓶で殴り殺された深谷氏の屍体と、加害者の早川と、例の奇妙な荷物を乗せた白鮫号は、あの無気味な鳥喰崎の吹溜りへ着きます。船底の重心板《センター・ボード》は粘土質の海底に接触し、舵板《ラダー》の蝶番には長海松《ながみる》が少しばかり絡みつき、そして舷側《ふなべり》の吃水線には、一様に薄穢い泡が附着します。さて、そんな事も知らないで下男の早川は、荷物を岸に投げ降ろし、深谷氏の屍体を海中へ投げ込んで船尾《スターン》へロープで結びつけます。そして、岸伝いに白鮫号を
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