通り交換局へ問合した。そしてその呼び出しを依頼して電話室を出ると、廊下伝いにホールの方へやって来た。
 そこでは深谷夫人と黒塚を相手にして、東屋氏が何か尋ねているところだった。
「――すると御主人は、十年前に日本商船をお退《ひ》きになると、直ぐにこちらへお移りになったんですね」
「左様でございます」
 夫人が答えた。
「で、下男の早川は何年前にお雇いになりましたか?」
「恰度その頃からでございます」
「お宅でお雇いになる以前に、早川は何処にいたかご存じですか?」
「あの男の雇入れに関しては、全部主人の独断でございましたので、私は少しも存じませんが――」
「ああそうですか」と東屋氏は頷きながら、
「ところで、あの船室《ケビン》の前の白い柱《マスト》の尖端《さき》へ、御主人が燈火《あかり》をお吊るしになったのは、度々のことではないですね?」
「ええ、それはもうほんの、年に一度か二度のことでございます」
「ではもうひとつ、これは、妙なことですが、昨晩お宅では、ニュースの時間に、ラジオを掛けてお置きになりましたか?」
「ええ、あれはいつでも掛っております」
「有難うございました」
 東屋氏は紙
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