畏《かしこ》まりました」
そう云って奥へはいって行った。が、間もなく戻って来ると、小さな銀色の鍵を東屋氏に渡しながら、
「どうぞご自由に、お調べ下さいまし」
やがて私達が再び別館《はなれ》の前まで来ると、東屋氏は、物置の秤台に置かれた桁網の中からマベ貝を二ツ三ツ掴み出して来て、キャプテン深谷の船室《ケビン》へ這入った。
けれどもその室《へや》は、ただ船室《ケビン》式に造られていると云うだけで、中は割に平凡なものだった。海に面して大きく開いている棧《さん》のはまった丸窓の横には、立派な書架《しょだな》が据えられ、ギッシリ書物が詰っている。総じて渋い装幀の学術的なものが多い。書架と並び合って、大きな硝子戸棚が置かれてあり、その中には、わけのわからぬ道具や品物がいっぱい詰っていたが、黄色い硝子のはまった大きなひとつの吊りランプが私の眼を惹いた。部屋の中央には、およそこの部屋に不似合な一脚の事務机が据えられてあり、その上の隅には、書類用の小箪笥が乗せてある。
東屋氏はひと亙り室内を見渡すと、机の上へマベ貝を置いて、椅子に腰掛け、暫くジッと考え込んでいたが、やがて書架の前へ歩み寄ると、鼻
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