私の手からノートを取ると、
「六五・二〇〇|瓩《キロ》の下男の早川です」
すると司法主任は浮き腰になり、
「下男?――失敗《しま》った。そいつは私達の着く前に、町の郵便局まで出掛けたそうです」
「郵便局?」
今度は東屋氏が乗り出した。
「飛んでもない。――この岬から西南の海岸一帯に亙って、非常線を張って下さい。山も木立も、それから鳥喰崎も……あいつの『郵便局』はその辺にあるんです」
と私の方をチラッと見て、
「現に僕達は、先刻《さっき》鳥喰崎の端っぽで早川氏の跫音を拝聴したんだ」
司法主任は直ぐに飛び出して行った。
東屋氏も立上った。
「さあ、忙しくなって来たぞ」
やがて東屋氏は主館《おもや》の玄関《ポーチ》へやって来ると、そこで急に騒ぎ出した警官達を見ながら女中と二人でうろうろしていた深谷夫人を捕えて、早速切り出した。
「奥さん。凶悪な犯人が判りました。下男の早川です」とそれから驚いている夫人へ丁寧に改まって、「時に、甚だ済みませんが、一寸御主人の船室《ケビン》を拝見さして戴きたいのですが――」
「ああ書斎でございますか?」
と夫人は一寸躊躇の色を見せたが、直ぐに、
「
前へ
次へ
全65ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング