ころの驚くべき最初の事実を発見しなければならなかった。
キャプテン深谷氏の屍体は、片足を鱶《ふか》にもぎとられた見るも無残な痛ましいものであったが、検死を進めるに従って、はからずも頭蓋の一部にビール瓶様の兇器で殴りつけられた、明かに他殺の証跡が残されているのを発見した。
私は驚きに顫《ふる》えながらも、つとめて平常を装うようにして、静かに夫人に訊ねた。
「御主人の屍体は、ヨットの中にありましたか?」
すると夫人は私の顔色を見取ってか、急に不審気なおどおどした調子で答えた。
「いいえ、船尾《スターン》の浮袋へ、差通されたように引っかかって、ロープで船に引かれるように水びたし[#「びたし」に傍点]になっておりました」
「ヨットは最初誰が見つけましたか?」
私は再び訊ねた。
「下男の早川《はやかわ》でございます。あれは、白鮫号《しらさめごう》を見つけますと、すぐに泳いで、連れて来てくれました。でも先生、なぜでございます」
「奥さん、これは、大変重大な事件でございます。――御主人は、昨晩何時頃にお出掛けになりましたか?」
「さあ……」と夫人は蒼褪《あおざ》めて小首を傾《かし》げながら不
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