々に、葦《あし》に似た禾本《かほん》科の植物類が丈深く密生して、多少|凸凹《でこぼこ》のある岸の平地から後方鳥喰崎の丘にかけて、棘《いばら》のような細かい雑草や、ひねくれた灌木だの赤味を帯びた羊歯類の植物だのが、遠慮なく繁茂している。そしてその上方には、原始的な喬木の類が重苦しいまでに覆い重なっている。船がこの陰気な小さい入江にはいると、不思議に風がなくなってしまった。少しの横揺れもしない白鮫号は、惰性の力で滑るように動いている。恰度この時、いままで海面にギラギラ反射しながら照りつけていた太陽の光りが、深い雲の影に遮られると、急に辺りが暗く、だが気味悪いほどハッキリして来た。私は思わず水面を見た。
この小さな海の袋小路の上には、どろどろした、濃い、茶褐色の薄穢い泡の群が、夥しく漂っている。そしてそれが、入江の奥へ行くに従ってどんどん密度を増し、とうとう一面の泡の海と化して来た。
「この辺へ着けよう」
東屋氏の言葉に従って重心板《センター・ボード》が海の底へ触れないように、なるべく深味のところを選んで私は船を着けた。
恰度私達が、しっとりした岸の上へ降り立った時に、
「シイッ!――
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