鋭い角度で射通した太陽の点光《スポット・ライト》に照らされて、心持ち赤茶けながらくっきりと映えあがって来た。
私達の乗った白鮫号は、左舷の前方から強き南風を受けて、射るように速くうねりを切って走り続ける。私も東屋氏もヨットの帆走《セイリング》法は心得ていたし、それにこのシックなマルコニー・スループは、恐ろしく船足が軽い。やがて私は、軽く面舵《おもかじ》を入れた。白鮫号の船首《プラウ》は、緩やかな弧を描いて大きく右転しはじめる。鳥喰崎に近附いたのだ。進むにつれて右舷の海中へ、身を曲《く》ねらして躍り出た巨大な怪獣のような鳥喰崎の全貌が、大きくのしかかるように迫り寄る。すると、その出鼻を越して私達の視野の中へ、鏡のような内湾が静かに横わって来た。船は緩やかにその内湾の入口に差し掛る。間もなく私達は、無気味な吹溜りを擁していると云う小さな鉤形の岬を曲り始めた。内湾を左に見て段々私達がその岬を折れ曲るに従い、鳥喰崎の陰鬱な裏側が見え出して来た。確かにそれは陰鬱だった。
水際には少しも岩がなく、それかと云って、何処の浜にでもある砂地とても殆んどなく、一面に黒光りのする岩のような粘土質の岸の処
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