の論点からして、失礼ですが、あの泡の跡がローリングによって出来たものであると云うお考えを否定しなければなりません。もっとも私は、白鮫号が決してローリングしなかったとは思いません。現在《いま》残っている泡の線を壊さぬ程度の横揺《ローリング》はあったでしょう。しかし、比較的波の多いこちらの海へ漂流して来る間に、ローリングをして尚且つ泡の線が殆んど全体に亘って無事でいられたのは、その吹き溜りで白鮫号が、すっかり空《から》になり、急に軽くなって、吃水が浅くなったからです」
「……ふん、理窟ですな」
 黒塚氏は口惜しそうに呟いた。
「では、先程のお願いを、お聞入れ願いたいと思います」
 そこでとうとう、二人は秤に懸ってしまった。
 先ず黒塚氏が六六・一〇〇|瓩《キロ》。続いて洋吉氏が四四・五八〇|瓩《キロ》。合計一一〇・六八〇|瓩《キロ》。
「義兄《にい》さんの体重も、お知りになる必要があるんでしょう?」
 洋吉氏が云った。
「深谷氏のですか? ええ、是非ひとつ」
「恰度いいですよ。姉の『家庭日記』に、一月毎の記録がある筈ですから」
 そう云って洋吉氏は、主館《おもや》へ向って大声で女中に命じた
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