しゃるとかで、休航毎にああしてお遊びに来られます」
「御年配は?」
「さあ、四十位? と思いますが……まだお独身《ひとり》で、快活なお方ですから、キャプテンよりもむしろ奥様や洋吉様とお親しい様子で……」
「ああその洋吉さんと云う方は、奥さんの御舎弟ですってね」
「ええそうです。チョコレートのお好きな、随分モダーンな方で、この春大学を御卒業なさってから、ずっとこちらにいらっしゃいますわ」
「チョコレートが好き?」
私は瞬間、先程の下男の言葉を思い出して、思わず口を入れた。「それで、昨夜何時頃に寝《やす》まれましたか? 洋吉さんは」
「昨夜ですか? 存じません。なんでも黒塚様と御一緒に、久し振りだからって随分遅くまで御散歩のようでしたので――」
恰度この時、下男の早川が私達に追いついて来た。そしてもう別館《はなれ》の物置の入口まで来ていた私達へ、
「秤は此処にございます。一寸お待ち下さい」
そう云ってポケットから鍵を取り出した。
東屋氏は女中へ云った。
「いや、もう結構です。有難う」
そこで彼女は、ほっとしたように急いで、主館《おもや》の方へ引返《ひっかえ》して行った。そして間も
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