た。
「こちらの御主人は、いつも夜中に海へ出て、いったい何をされるんですか?」
「さあ……」
 と彼女は驚いたように眼を瞠《みは》りながら、
「でも、夜中にヨットへお乗りになるのは、キャプテンの御趣味なんですもの……」
「随分変った趣味ですね……貴女《あなた》も、お供をしたことがありますか?」
「ええ、暫く以前のことですが、一度ございます……綺麗な、お月夜でございました」
「ただこう、海の上を帆走《はし》り廻るだけですか?」
「ええ。でも素晴らしい帆走《セイリング》ですわ」
「お月様でも出ていればね」
 と東屋氏は話題を変えて、「時に、昨日の夕方、他所《よそ》からのお客さんはありませんでしたか?」
「夕方ですか? ええございませんでした」
「黒塚さんは?」
「あの方は九時過ぎでした」
「電話は?」
「電話? ええ、掛りません。あの電話は、殆んど飾りでございますわ」
「昨夜御主人は、なにを心配して見えたんですか?」
「え?……さあ、少しも存じません。なんでも大変、お顔の色は悪うございましたが――」
 彼女は不審気に東屋氏を見た。
「では昨夜は、誰れと一緒にヨットへ乗られたんですか?」

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