あったほどですから、無論|凪《なぎ》でしたでしょう」
「よし、ともかく船を出そう」
東屋氏は進み出た。
この速製の探偵屋に最初のうち少からず危気《あぶなげ》を覚えていた私も、いまはもう躊躇するところなく、下男と力を合わせて白鮫号を水際へ押し出した。
やがてヨットが静かな磯波に乗って軽く水に浮ぶと、東屋氏は元気よく飛び乗った。そしてなにかひどく自信ありげに、
「さあ。これから、一寸興味ある実験を始める。船の水平を保つように、各自の位置を平均して取ってくれたまえ」
東屋氏は上機嫌で船縁に屈み込むと、子供のように水と舷側の接触線を覗き込んでいたが、不意に立上って私をふん捉《づかま》えた。
「君、何貫ある?」
「何貫って、目方かね?」
「そうだ」
「よく覚えていないが、五十|瓩《キロ》内外だね」
「ふむ。よし」
と今度は下男に向って、
「君は?」
「私もよく覚えていませんが、六十|瓩《キロ》以上は充分ありましょう」
「成る程。――僕が約五十六|瓩《キロ》と……一寸君達、そのままでいてくれ給え」
そう云って両手で抑えるように私達を制すると、そのまま岸に飛びあがって行った。が、間もなく
前へ
次へ
全65ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング