たえられた白鮫号の船体《ハル》に噛りついて、スマートな舷側に沿って注意深く鋭い視線を投げかけながら、透したり指で触って見たりしていたが、不意に私達を振り返った。
「一寸見に来給え」
そこで私達も船体《ハル》に寄り添って、東屋氏の指差す線に眼を落した。
なんのことはない。半分|乾枯《ひから》びかかった茶褐色の泡の羅列が、船縁《ふなべり》から平均一|呎《フィート》ほどの下の処に、船縁に沿って、一様に船をぐるっと取り巻くようにして長い線を形造っているだけだ。何処にでも見受けられるありふれた現象だ。例えば、潮の引いてしまった岩の上にでも、砂の上にでも――。
「なんだ、泡の行列か……」
思わず云いかけた私も、しかし意味ありげな東屋氏の視線に合って、直《ただち》に彼の云おうとしている意味を汲み取った。
「ああなるほど、君は底に粘土質の泥と長海松の生えている海岸の水面に、この茶褐色の泡が浮いていた、と云うんだね?」
「うむ、だが僕は、もっと素晴らしい事実に気がついたんだ」
そう云って今度は下男に向って、
「この辺は、波は静かでしょうね?」
「ええ、ま大体……」
「昨夜は?」
「海霧《ガス》が
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