?」
 私と下男は、云い合したように東屋氏の側へ寄って覗き込んだ。
 成る程|重心板《センター・ボード》の下端部の、鉛と木材の接ぎ目の附近に、薄く引っこすったように柔かな粘土が着いている。
「この白鮫号は、今朝水から上げたなり、まだ一度も降ろさないですね?」
「ええそうです」
 下男が答えた。
「するとこの粘土質の泥は新しいものだし、この附近は岩ばかりだし……」と東屋氏は私の方へ笑いながら、
「つまり昨晩深谷氏の乗ったこの白鮫号は、一度何処か粘土質の岸に繋がれた訳だね。そして、この重心板《センター・ボード》が船底から余分に突出しているために、船底のどの部分よりも一番早く、一番激しく、粘土質の海底と接触する……」
「ふむ」
「そしてその海底には、ほら、その舵板《ラダー》の蝶番に喰っ附いている海草が、それは長海松《ながみる》と云うんだが、そいつが、一面に繁茂しているに違いない。その種の海草は、水際の浅いところに多く繁殖するからね」
 私も下男もこの推論には、ただ恐れ入るより他なかった。全く海のことにかけては、私などなんにもならない。
 東屋氏は重心板《センター・ボード》を離れると、今度は横
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