大きな石を二つ程重そうに抱えて来て、船に積み込ませた。
「さあ、もう一度船の水平を保つために、各自の位置に注意して。いいですか」
 そう云って東屋氏は、前と同じように屈み込んで舷側を覗《のぞ》き込んでいたが、間もなく微笑みながら立上って云った。
「よし。これで恰度よい――。ところで、先程僕が面白い発見をしたと云ったのは、これなんだよ。つまり、僕と君とそれから下男《あなた》と、そしてこの大小二つの石と、合計しただけの重量が、一層正確に云えばいまこの白鮫号に乗っかっているだけの重量と同じだけの重量が、そうだ、人間なら大人三人位の重量が、昨夜この泡のある海面に浮いていた同じ白鮫号の中に乗っかっていたのだ。つまり深谷氏は、昨夜一人だけでヨットへ乗っていたのではない。誰かと一緒に乗っていたのだ」
「成る程」
「そしてだ。その重量は、泡のある海面で、この白鮫号の上から、消えてなくなったのだよ」
「どうして?」
 私は思わず問い返した。
「だって、もしもそうでなかったなら、いま僕は、こうしてこんな発見をすることは出来ないよ。その泡の海から、波にびたつかれ[#「びたつかれ」に傍点]ながら白鮫号がここま
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