んに渡すときの楽しみを、昨夜から胸に描《えが》いていたクルミさんである。
 その香水の、可愛い木箱と一緒に、クルミさんのポケットの中には、チューインガムとキャラメルがはいっている。快い小旅行への、楽しい用意であるはいうまでもない。
 実際、クルミさんは、今日の国府津行《こうづゆき》を、もう三日も前から、夜も眠られないほど楽しみにしていた。
 いよいよ今朝になると、もう御飯もろくに咽喉《のど》を通らない。
「駄目ですよ、クルちゃん。御飯だけは、ウンと食べて行かなくっては‥‥」
 お母さんにたしなめられても、
「だって、いただきたくないんですもの。もし、おなかがすいたら、大船《おおふな》でサンドウィッチを買いますわ。あすこのサンドウィッチ、とてもおいしいんですもの」
「まア、あきれたおしゃま[#「おしゃま」に傍点]さんね。どこからそんなこと聞き噛《かじ》ったの?」
「あーラいやだ。だって、去年の夏、鎌倉《かまくら》の帰りに、お母さんが買って下さったじゃないの‥‥」
 そんなわけで、早々にお家を飛びだすと、いそいそとして東京駅へやって来たクルミさんである。
 日曜日で、列車はわりにたて混んで
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