になってしまった。たださえ、知らない大人の人との同席なぞ、あまり歓迎したくなかった今日の旅行に、こともあろうに恐しい盗賊紳士《とうぞくしんし》の乗合わすなぞとは! ふとまた、クルミさんは、別の考えにとらわれる。
 ――いま、この客車の中に、このように恐しい紳士が乗っていることなぞ、誰も知らないのだ。あたしだけが知っている。このまま知らぬ顔をして、国府津《こうづ》で降りてしまっていいものだろうか?
 ――しかし、それかと云って、どうして、自分のような少女の身で、こんなにふるえているような臆病《おくびょう》さで、このことを人に知らせることなぞ出来ようか?
 遠く、松原の向うに、見覚えのある国府津の山が見えだした。
「そうだ、もう、そろそろ荷物を下して置かなければならない」
 急に我に返ると、クルミさんは、思い切って、静かに立ちあがった。手足がガタガタふるえている。まるで夢の中のしぐさのように、中々網棚《あみだな》の風呂敷包《ふろしきづつ》みが下せない。
 が、やがてとり下すことが出来た。
 紳士は、相変らず居睡《いねむ》っている。
 と、この時、お祝いもののはいったその風呂敷包みを膝《ひざ
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