《とくちょう》が三つともピッタリあてはまるというような人が何人もいるものだろうか?
「しかも、この紳士は、極端《きょくたん》なくらい不自然に、四本指の右手を隠しているではないか! そういえば、車室にはいって来た時の態度からして、とてもおかしい!」
 クルミさんは、ブルブルッと身ぶるいした。
 ――恐らくこの紳士《しんし》は、最初車室にはいって来たときに、素早《すばや》くあたりを見廻して、クルミさん一人だけのこの席をみつけると、相手を少女とみくびって、それであんな満足《まんぞく》そうな顔をしたのに違いあるまい。そして、昨夜あんな恐しい仕事をして睡《ねむ》らなかったので、熱海か箱根へ逃げのびる途中で、ついウトウトと、居睡《いねむ》りをしはじめたのに違いない。
 クルミさんは、もうジッとしていられなくなった。が、さりとて声を立てたり動いたりすることはとても出来ない。
 すぐ眼の前の新聞記事によれば、犯人は凶器《きょうき》を持っていたとあるではないか! うっかり声でも立てたなら、どんなことになるかも知れない。
「こっそり車掌《しゃしょう》さんに知らせようか知ら」
 しかし、そんなことをしたとて
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