階下《した》には、店の他に、やはり二部屋あった。が、むろん房枝は見当らない。表には、もう十一時から戸締りがしてある。警官達が崩れ込んだ前後にも、そこから逃げ出す隙はなかった。そこで彼等は、台所へ押掛けた。そこはこの家の裏口になっていて、幅三尺位の露次《ろじ》が、隣に並んだ三軒の家の裏を通って、表通りとは別の通りへ抜けられるようになっていた。その露次を通り抜けて街へ出たところには、しかし人の好さそうな焼鳥屋が、宵から屋台を張っていた。焼鳥屋は頑固に首を振って、もう二時間も三時間も、この露次から出入《ではいり》した者はない、とハッキリ申立てた。そこで警官は引返すと、今度はいよいよガタピシと煙草屋の厳重な家宅捜査をしはじめた。そして、便所でも押入でも、片ッ端から容赦なしに捜して行くうちに、とうとう二階の、それも当の殺人の行われた部屋の押入の中に、房枝をみつけてしまった。
 ところが、真ッ先にその押入の唐紙《からかみ》をあけた警官は、あけるが否《いな》や、叫んだ。
「や、や、失敗《しま》った!」
 押入の中で、もう房枝は死んでいた。
 さっきに「青蘭」の女達が見たときのままの、殆んど無地とも見
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