える黒っぽい地味な着物を着て、首に手拭を巻いて、それで締めたのか、締められたのか、グンナリなって死んでいた。血の気の引いた真ッ蒼《さお》な顔には、もう軽いむくみが来ていたが、それが房枝である事は間違いなかった。娘の君子は、警官に抱き制《と》められながらも、母親の変りはてた姿へおいおいと声をあげて泣きかけていた。
 いままで警官の後ろからコッソリ死人を覗き込んでいた例の三人組の一人が、黄色い声でいった。
「ああ、この死人《ひと》ですよ。あっちの、派手な着物を着た方の女を、剃刀で殺したのは、この女です」
 すると上役らしい警官が乗り出して、大きく頷いていたが、やがていった。
「――つまり、なんだな、あの澄子という女を殺してから、この房枝は、暫く呆然として立竦《たちすく》んどったが、「青蘭」の窓から、君達に見られとったと知ると、急に正気に戻って……さりとて階下《した》へおりるのは危険だから、ひとまずよろよろと押入の中へ隠れ込んだ……が、そうしているうちにも、いよいよ自責と危険に責められるにつれ、堪えられなくなってとうとう自殺した……ふむ、まずそんな事だな」
 警官はそう云って、桃色の寝巻のま
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