のうつることさえあった。そんな時「青蘭」の女達は、席をへだてて客の相手をしていながらも、そっと顔を見合せては、そこはかとない溜息をつく。ところが、そうした煙草屋の不穏な空気は、バタバタと意外に早く押しつめられて、ここに、至極不可解きわまる奇怪な事件となって、なんとも気味の悪い最後にぶつかってしまった。そしてその惨劇の目撃者となったのは、恰度《ちょうど》その折、「青蘭」の二階の番に当っていた女給達だった。
それは天気工合からいっても、なにか間違いの起りそうな、変な気持のする晩のこと、宵の口から吹きはじめた薄ら寒い西の風が、十時頃になってふッと止まってしまうと、急に空気が淀《よど》んで、秋の夜とは思われない妙な蒸暑さがやって来た。いままで表二階の隅の席で、客の相手をしていた女給の一人は、そこで腰をあげると、ハンカチで襟元を煽《あお》りながら窓際によりそって、スリ硝子《ガラス》のはまった開き窓を押しあけたのだが、何気なく前の家を見ると、急に悪い場面《とこ》でも見たように顔をそむけて、そのまま自分の席へ戻り、それから仲間達へ黙って眼で合図を送った。
煙草屋の二階では、半分開けられた硝子《ガ
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