と、堪えられなくなって寝床から抜け出し、表の部屋へ行って見たのだが電気が消えていたのでいよいよ不安に胸を躍らせながら、間の部屋に電気をつけてそこの唐紙をそおッとあけて表の部屋を覗きみた。そしてその部屋の真中に澄子が倒れているのをみつけるとそのまま声も上げずに転ぶようにして階下《した》へ駈けおり、表の戸をコジあけるようにして人々に急を訴えたのだ――大体そんな陳述だった。
「表の部屋を覗いた時に、窓のところにお母さんが立っていなかったか?」
 警官の問に君子は首を振って答えた。
「いいえ、もうその時には、お母さんはいませんでした」
「それで驚いて階下《した》へ降りた時に、お母さんがいないのを見ても、別に不審は起らなかったのか?」
「……お母さんは、時どき夜|晩《おそ》くから、小父《おじ》さんと一緒にお酒を飲みに行かれますので、また今夜も、そんな事かと思って……」
「小父さん? 小父さんと云ったね? 誰れの事だ?」
 警官は直ぐにその言葉を聞きとがめた。そこで君子は、達次郎のことを恐る恐る申立てた。そしてビクビクしながらつけ加えた。
「……今夜小父さんは、お母さんよりも先に、まだ私が店番をし
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