を開けてみた。そして家の中の異様な出来事をみつけると、一番近い私のところまで駈けつけて来たという。
さて、私の家から三四郎の家までは、スキーで行けば十分とかからない。
三四郎の住居は、丸太材を適度に配したヒュッテ風の小粋な住居《すまい》で、同じように三軒並んだ右端の家であった。左端の家はもう休んだのか窓にはカーテンが掛り、真中の家は暗くて貸家札が貼ってあった。三四郎の家の前まで来ると、美木はもう顫《ふる》え上って動こうとしなくなった。それで私は、ここから程遠くない同じ女学校の物理教師の田部井《たべい》氏の家まで、彼女を求援に走らした。そして流石《さすが》に固くなりながら、思切って三四郎の家へ入っていった。
玄関の隣りは、子供の部屋になっていた。壁には幼いクレオン画で、「陸軍大将」や「チューリップの兵隊さん」が、ピン付けになっていた。部屋の中程には小さな樅の木の鉢植えが据えられて、繁った枝葉の上には、金線のモールや色紙で造られた、花形や鎖が掛り、白い綿の雪がそれらの上に積っていた。それは三四郎が、臨時講師に出る前から可愛い春夫のために買い植えてやったクリスマス・ツリーであった。
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