寒の夜晴れ
大阪圭吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)浅見三四郎《あさみさんしろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三十|面《づら》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)なに三四郎が※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
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 また雪の季節がやって来た。雪というと、すぐに私は、可哀そうな浅見三四郎《あさみさんしろう》のことを思い出す。
 その頃私は、ずっと北の国の或る町の――仮にH市と呼んでおこう――そのH市の県立女学校で、平凡な国語の教師を勤めていた。浅見三四郎というのは、同じ女学校の英語の教師で、その頃の私の一番親しい友人でもあった。
 三四郎の実家は、東京にあった。かなり裕福な商家であったが、次男坊で肌合の変っていた三四郎は、W大学の英文科を卒《お》えると、教師になって軽々《かるがる》諸国行脚の途についた。なんでも文学を志したというのだが、いまだ志成らずして、私とH市で落合った頃には、もう三十|面《づら》をかかえて八つにな
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