飲んでつけだした。
「意外に近かったですね」田部井氏が歩きながら、蒼い顔をして云った。「どうも、不吉な結果になりそうです……ところで、あなたは、いったいサンタ・クロースを、誰だと思いますか?……もうお判りになったでしょう?」
 私は顫えながら、烈しく首を振った。田部井氏は空家の庭へ踏み込みながら、
「判っていられても、云い憎いんじゃアないですか?……この場合、サンタ・クロースになって、窓から贈物を届けるほどの人は、誰でしょう?……しかも、子供は、引ッ抱えなくても、一人でスキーをはいてついて来るんです……確か、七時半頃に、このH市へ着く汽車がありましたね?……私はなんだかその汽車で、予定よりも一日早く、浅見さんが帰って来たんじゃないかと」
「えッ、なに三四郎が※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」私は思わず叫んだ。「飛んでもない……よしんば、三四郎が帰ったにしても、なぜ又こんな酷惨《むごたら》しいことを……いいや、あんなに家庭を愛した男が、どうしてこんなことをするものですか!」
 しかしもうその時、空家の裏側へ廻っていた田部井氏は、そこの窓の下に二組の大小のスキーが脱ぎ捨てられているのをみ
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