つけると、すぐに明放《あけはな》された窓へ飛びつき、真暗な部屋の中へはいって行った。続いて窓枠に飛びついた私は、この時闇の中から顫え上るような、田部井氏の呻き声を聞いた。
「ああ……やっぱり遅かった……」
闇に眼が馴れるにつれて、やがて私も、天井に下げたカーテンのコードで、首を吊っている浅見三四郎の、変り果てた姿を見たのだった。その足元には、バンドで首を絞められた子供が、眠るように横わっていた。チョコレートの玉が、二つ三つ転っている。その側に、キチンと畳まれた紙片が置いてあったが、田部井氏はそれを拾い上げると、チラリと表紙《おもて》を見て、黙って私にそれを差出した。それは三四郎の、私にあてた、たった一つの遺書であった。雪明りを頼りに急ぎ認《したた》めたものとみえて、荒々しい鉛筆の走書きであったが、窓際によって、私は顫えながらも、辛《かろう》じて読みとることが出来た。
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鳩野君。
とうとう僕は、地獄へ堕ちた。しかし君にだけは、事の真相を知って貰いたい。
農学校は、雪崩《なだれ》のために予定よりも一日早く休みになった。七時半の汽車で町についた僕は今夜がクリスマ
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