の迂濶さに気づいて、思わず顔がほてって来た。が、この時私は、ふと電光のように、或る思いつきが浮んで来た。
「ああ田部井さん。判りましたよ。……八時前には、雪が降っていたでしょう。それで、サンタ・クロースは八時前にここへ入って、八時過ぎて雪が止んでから、出て行ったのでしょう。だから、入った時の跡は雪に消され、出て行った時の跡だけ残ったのでしょう」
 すると田部井氏は、意外にも静かに首を振った。
「それが、大違いなんですよ。成る程、その考え方も、一応もっともですね。私も、最初あの窓の下の条痕《あと》が一つだけなのを見た時に、そんな風にも考えて見ました。しかし、あとであなたから、あの条痕《あと》が消えてしまったことを伺った時に、それが間違っている事に気づきました。問題は、あの途中で消えてしまった足跡にあるんです」
「と云われると……?」
「じゃアやっぱり、雪が積ったんですか?」
「そうですよ」
「じゃア何故、その雪は、あんな斑《むら》な、不公平な降りかたをしたんです」
 すると田部井氏は、私の肩に手をかけた。
「あなたは、推理の出発を間違えられたんです。いいですか――部屋の中で人が殺されて、
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