部井氏は、どうしたことか、裏の窓口へは廻ろうとしないで、生垣の表門へ立って、前の通りをグルグル見廻しはじめた。そこの雪の上には、出入した幾つかの足跡が入り乱れ、近所の人達が、蒼い顔をして立っていた。いったいどうしたと云うのだろう。
「田部井さん。足跡は、裏の窓口からですよ」
「あああれですか」と田部井氏は振返って、
「あれはもう、用はありませんよ。私は、もう一つの条痕《あと》を探してるんです」
「もう一つの条痕《あと》ですって?」
思わず私は、そう訊き返した。
「そうですとも」田部井氏は笑いながら、「窓の外には一人分の跡があっただけでしょう。ね、あれでは往復したことになりませんよ。あそこからサンタ・クロースが出て行ったのなら、もう一つ入った跡がなければなりませんし、あそこから入ったのなら、出た跡があるわけですよ」とそれから、浅見家の屋根のほうを見上げてニヤッと笑いながら、「いくらサンタ・クロースだって、まさかあの細い煙突から、はいったなんてことはないでしょう……こいつは、ただのお伽噺《とぎばなし》ではないんですからね」
成る程、何処かから入って来た跡がなければならない筈だ。私は自分
前へ
次へ
全30ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング