を滑っていたものが、そのままスウーッと夜空の上へ舞上ってしまったかのように、影がうすれ、遂にはすっかり消えてしまっているのだ。
 その消え方たるや、これが又どう考えてもスキーの主に羽根が生えたか、それとも、あとから、その跡の上に雪が降って、跡を消してしまったか――それより他にとりようのない、奇怪にも鮮かな消えかただった。
 私は、うろたえながらも、夢中になって考えた。しかし前《さき》にも述べたように、夕方からひとしきり降りつのった雪は八時になってバタッと止んでしまうとそのまま「寒の夜晴れ」で、あとから雪なぞ決して降らなかった。よし又、たとい降ったとしても、ここから先の跡を消した雪が、何故現場からここまでの跡を消さなかったのであろうか? 雪はあまねく降りつもって、凡ての跡は消されなければならない。――それでは、その原ッぱに奇妙な風雪《かざゆき》の現象が起って、風に舞い上げられた雪が降りつもって、その部分の跡が消されたのではあるまいか? しかしそのような風雪を起すほどの風は、決してその晩吹かなかった筈だ。――私は憑かれた人のように雪の原ッぱに立竦んでしまった。まだ鳴り止まぬ不気味な鐘の音が
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