、悪魔の嘲笑《あざけり》のように澄んだ空気を顫わせつづける。
しかし、ここで私は、いつまでもボンヤリ立竦んでいるわけにはいかない。攫《さら》われた子供の安否は急を告げている。家には二人の死人がある。もうこの上は、猶予なく警察へ報せなければならない。
やがて私はそう決心すると、そのまま一直線に市内へ向って走り出した。一番近い交番へ飛び込んで、事件を知らせ、そこの若い警官と一緒に再び元来た道を引返しながらも、しかし私は、雪の原ッぱの消失ばかり気にしなければならなかった。
やがて私達が、ひとまず三四郎の家まで辿りついた時には、もう出来事を嗅ぎつけたらしい近くの家の人達が二、三人、スキーをつけて、警察へ報せに出ようとしているところだった。三四郎の家の前には、その人達に混って度を失った美木が、泣き出しそうな顔で立っていた。家の中には、美木に呼びにやらした田部井氏が、恐らく私と同じ事を考えたのであろう、ガタピシ扉《ドア》を鳴らして部屋から部屋へ子供の行衛《ゆくえ》を探していた。
警官は家の中へはいって現場をみると、直ぐに私と田部井氏へ、本署から係官が出張されるまで、現場の部屋を犯さないよう
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