分頃迄だろうと思います。何分、不意に恐ろしい場面を見て、すっかり取のぼせて了いましたので――」
恰度この時いつの間にかやって来た例のカイゼル氏が、二人の会話に口を入れた。
「――つまり奥さんは、もう一人の証人である百姓の男に助けられる迄は、その場で昏倒《こんとう》していられたんです」
で、大月はその方へ向き直って、
「すると、その百姓の男と言うのは?」
「つまり奥さんと同じ様に、兇行《きょうこう》の目撃者なんですがな。――いや、それに就《つ》いて若し貴方がなんでしたなら、その男を呼んであげましょう。……もう、一応の取調べはすんだのだから、直ぐ近くの畑で仕事をしているに違いない」
親切にもそう言って警官は出て行った。
大月は、それから夫人に向って、この兇行の動機となる様なものに就いて、何か心当りはないか、と訊ねた。夫人はそれに対して、夫は決して他人に恨みを買う様な事はなかった事。又この兇行に依って物質的な被害は受けていない事。若しそれ等以外の動機があったとしても、自分には一向心当りがない事。等々を答えた。
軈て十分もすると、先程の警官が、人の好さそうな中年者の百姓を一人連れて来
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