た。
大月の前へ立たされたその男は、まるで弁護士と検事を勘違いした様な物腰でぺこぺこ頭を下げながら、素朴な口調で喋り出した。
「――左様で御座居ます。手前共が家内と二人でそれを見ましたのは、何でも朝の十時頃で御座居ました。尤も見たと言いましても始めからずうと見ていたのではなく、始めと終りと、つまり二度に見たわけで御座居ます。始め見たのは殺された男の方が水色の洋服を着たやや小柄な細っそりとした男と二人で梟山の方へ歩いて行ったのを見たんで御座居ますが、何分手前共の仕事をしていました畑は其処から大分離れとりますし、それに第一あんな事になろうとは思ってませんので容貌《かお》やその他の細《こまか》な事は判らなかったで御座居ます」
「一寸、待って下さい」
証人の言葉を興味深げに聞いていた大月が口を入れた。
「その水色の服を着た男と言うのは、オーバーを着てはいなかったのですね。――それとも手に持っていましたか?」
そう言って大月は百姓と、それから夫人を促す様に見較べた。
「持っても着てもいませんでした」
夫人も百姓も同じ様に答えた。
「帽子は冠《かむ》っていましたか?」
大月が再び訊ねた。
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