一体どうしたと言うんですか?」
「まあ待ち給え。その隅の方に、金文字で、少しばかり字が見えるね」
「ええ。判ります。……arcelona《アルセロナ》――として、Victor《ビクター》・20113――とあります。それから、……チ・フォックストロット――」
「そうだ。その字の抜けているのは、勿論、あの、踊りのバルセロナの事だ。そして、もうひとつの方は、マーチ・フォックストロットだ――ところで、君は、時々ダンスを嗜《たしな》まれる様だが、その踊り方を知ってるかね? その、マーチ・フォックストロットと言《いう》奴《やつ》をだね」
秋田は、図星を指されて急に顔を赤らめた。が、軈て仕方なさそうに、
「二三度名前だけは聞いた事がありますが、僕はまだ習い始めですから、全然踊り方は知らないです」
「ふむ、そうだろう。――実は、僕も知らなかった。が、いま帰って行かれたあの若いお客さんから得た知識に依ると、何でもこのダンスは、四五年前に日本へ伝ったもので、普通に、シックス・エイトって言われているそうだ。欧州では、スパニッシュ・ワンステップと呼ばれているものだよ。そしてその名称の示す様に、このダンスのフ
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