女の艶しい声で、
「まあ、いけませんわ。こんなに戴いては……」
すると大月は、それを両手で押えつける様にして、それから秋田の方を振向きながら、
「君。――何と言う恰好をしているんだ。さあ、お客様のお帰りだ。其処をお通しし給え」
そこで秋田は、眼を白黒させながら、思わず一歩身を引いた。
「ほんとに済みませんわ。――じゃあ、又どうぞ、お遊びにいらして下さいな」
そう言って若い女は、媚《こび》を含んだ視線をチラッと大月へ投げると、秋田には見向きもしないで、到頭その儘出て行って了った。
大月は自分の椅子へ腰を下ろすと、さも満足そうにウエストミンスターに火を点けた。
秋田はどうにも堪らなくなって、到頭大月の側へ腰掛けた。そして、
「一体、どうしたと言うんですか?」
「別に、どうもしやしないさ。が、まあ、兎に角、これからひとつ説明しよう」
そう言って大月は、内ポケットへ手を突込むと、昨日屏風浦の断崖の上で拾った、例の黒く薄い板っぺらの様な小片を取出した。
「これ何んだか、勿論判るだろう? よく見て呉れ給え」
「……何んですか。――ああ。レコードの缺片《かけら》じゃありませんか。これが、
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