思い出した。そして何か英雄的《ヒロイック》なものを心に感じながら、コッソリと夫人の手許を盗み見た。が、勿論夫人は左利きではなかった。
 翌朝――。
 それでも昨晩に較べると大分元気づいたらしい大月は、朝食を済ますとこの土地を引き上げる迄にもう一度単身で昨日の丘へ出掛けて行った。そして崖の頂へ着くと再び昨日よりも厳重な現場の調査をしたり、靴跡の複写《コピー》を取ったりした。が、それ等の仕事が済むと、気に掛っていた仕事を済した人の様に、ホッとして別荘へ戻って来た。
 そして間もなく、大月、秋田、比露子夫人の三人は、銚子駅から東京行の列車に乗り込んだ。
 車中大月はこの犯罪は、大変微妙なものであるが、もう大体の見透はついたから、茲一両日の内には大丈夫犯人を告発して見せると言う様な事を、自信ありげな口調で二人に語り聞かせた。が、何故どうしてそうなるとか、詳しい話を聞かせて呉れないので、秋田は内心軽い不満と不審に堪えられなかった――。

     三

 屏風浦を引上げて、大月と秘書の秋田が丸《まる》の内《うち》の事務所《オフィス》へ帰ったのは、その日の午後二時過ぎであった。
 事務所には、二人
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