が一日留守をした間に、もう新しい依頼事務が二つも三つも舞い込んで、彼等を待っていた。昨日の屏風浦訪問以来、大月の言う事なす事にそろそろ不審を抱かせられてうんざりしていた秘書の秋田は、それでも極めて従順に、どの仕事から調べかかるか、と言う様な事を大月に訊《たず》ねて見た。が、それにも不拘《かかわらず》大月は、もう一度秋田を吃驚《びっくり》させる様な不審な態度に出た。全く、それは奇妙な事だった。
――銚子から帰って二時間もしない内に、新しい書類の整理をすっかり秋田に任せた大月は、築地《つきじ》の瑪瑙座の事務所を呼び出して、暫く受話器を握っていたが、軈て通話が終ると、何思ったのかついぞ着た事もないタキシードなどを着込んで、胸のポケットへ純白なハンカチを一寸折り込むと、オツにすましてその儘夕方の街へ飛び出して了ったのだ。
歳柄もなく口笛などを吹きながらさっさとアスファルトの上を歩き続けて行った大月は、銀座《ぎんざ》裏のレストランでウイスキーを一杯ひっかけると、それからタクシーを拾ってユニオン・ダンス・ホールへやって来た。そして其処で、昔習い覚えた危い足取で古臭いワルツを踊り始めた。――が、
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