ならば、若しも犯人が男で、そしてそんな野心を持っていたのだったならば、その男は、一見男に見えるビーチ・パンツやビーチ・コートを着るよりも、当然、逆に、一見して婦人と思われるワンピースか何かの婦人服を着なければならない筈だからね。……いや、全く僕は、最初夫人の証言を聞いた時から、ひょっと[#「ひょっと」に傍点]こんな事じゃないかと思った位いだ。遠方から見てそれが男装であったと言うだけで、犯人を男であると断定するなど危険な話だよ。なんしろ海のあちらじゃ女の子の男装が流行ってる時代なんだし、岸田氏を取巻く女達などは、ま、言って見れば日本のデイトリッヒやガルボなんだからね。――兎に角、若しも犯人が、夫人やこの証人の方の遠目を晦《くら》ます為にそんな奇矯な真似《まね》をしたのだとしても、今更そんな事を名乗って出る犯人などないんだから、まあ、直接の証拠をもっと探し出す事だよ」
大月は再び熱心に靴跡を辿り始めた。
軈て暫くして、靴跡が交錯しながら砂地から芝草の中へ消えているあたり迄来ると、再び二人の立会人を招いて、地上を指差しながら言った。
「林檎《りんご》の皮が落ちてるね。見給え」それから証人
前へ
次へ
全40ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング