に向って、「警察の連中はこれを見落したりなどして行ったんですか?」
「さあ、――この付近に林檎の皮など落ちている位いは珍しい事じゃないですから、旦那方は知らずに見落したんじゃなかろうかと思いますが。何でも旦那方はそこいら中|細《こまか》に調べられて、あの雑木林の入口に散っていた沢山の紙切れなんども丁寧に拾って行かれた位いで御座居ます」
「紙切れを――?」
「へえ。何か書いた物をビリビリ引裂いたらしく、一寸見付からない様な雑木林の根っこへ一面に踏ン付ける様にして捨ててあったものです。手前が拾いました奴は、恰度その書物の書始めらしく、何でも――花束の虫……確かにそんな字がポツリと並んでおりました」
「ほほう。……ふうむ……」
 大月は暫くジッと考えを追う様にして眼をつむっていたが、軈て、
「ま、それはそれとして、兎に角この林檎の皮だ。勿論これは、警察で見捨《みすて》て行ったものだけに月並で易っぽいかも知れない。が而し決して偶然ここに落ちていたのではなくて、この犯罪と密接な関係を持っている。――つまり兇行が犯された当時に剥き捨てられたものなんだ。よく見て御覧。そら。この皮は、岸田氏の靴跡の上
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