しょう》が痛々しく残り、タオル地の寝巻にも二、三の綻《ほこ》ろびが認められた。
 私がこの無惨な光景をノートに取っている間、喬介は大胆にも直接死体に手を触れて掌中《てのなか》その他の擦過傷や頸胸部の絞痕を綿密に観察していた。
「死後何時間を経過していますか?」
 喬介は立上がると、物好きにも側にいた警察医に向ってこう質問した。
「六、七時間を経ていますね」
「すると、昨晩の十時から十一時までの間に殺された訳ですね。そしていつ頃に投げ墜《おと》されたものでしょう?」
「路上に残された血痕、又は頭部の血痕の凝結状態から見てどうしても午前三時より前の事です。それから、少くとも十二時頃まではあの露地にも通行人がありますから、結局時間の範囲は零時から三時頃までの間に限定されますね」
「私もそう思います。それから被害者が寝巻を着ているのは何故でしょうか? 被害者は宿直員ではないのでしょう?」
 喬介のこの質問に警察医は黙ってしまった。今まで司法主任に何事か訊問されていた寝巻姿の六人の店員の一人が、警察医に代って喬介の質問に答えた。
「野口君は昨夜《ゆうべ》宿直だったのです。と言うのは、各々違った売
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