場から毎晩順番の交代で宿直するのが、この店の特種[#ママ]な規則と言いますかまあキマリ[#「キマリ」に傍点]になっているのです。昨晩の宿直は、店員の中ではこの野口君と私と、其処《そこ》に立っている五人と、都合七人でした。それから雑役の用務員さんの方《かた》で彼処《あそこ》にいる三人を加え、全部で十人の宿直でした。そんなわけで同じ宿直室へ寝ながら、宿直員の中ではお互に馴染《なじみ》の少い顔ばかりと言う事になるのです。昨晩の様子ですか? 御承知の通り只今では毎晩九時まで夜間営業をしていますので、九時に閉店してからすっかり静かになるまでには四十分は充分に掛ります。昨晩私達が、各々手分けをして戸締りを改めてから消燈して寝に就いた時は、もう十時に近い頃でした。野口君は、寝巻に着換えてから一人で出て行かれたようですが多分便所へでも行くのだろうと思って別に気にも留めませんでした。それから今朝の四時にお巡りさんに起されるまでは、何にも知らずにぐっすり眠ってしまったのです。……ええ、宿直室は、用務員さん達のが地階で、私達のは三階の裏側に当っています。六階から屋上に通ずるドアーですか? 別に錠は下しません
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