たついち》と言う二十八歳の独身店員である事、死体の落下点付近に幾つかのダイヤの混じった高価な真珠の首飾《くびかざり》が落ちていた事、そしてその首飾は、一昨日《おととい》被害者の勤務する貴金属部で紛失した二品の内の一つである事、更に又、死体及び首飾は今朝四時に巡廻中の警官に依って発見されたものなる事、そして最後に、この事件は自分が担任している事を附け加えて、少々得意気に話してくれた。説明が終わると、私達は許しを得て死体に接近し、罌粟《けし》の花の様なその姿に見入る事が出来た。
 頭蓋骨は粉砕《ふんさい》され、極度に歪められた顔面は、凝結した赤黒い血痕に依って物凄く色彩《いろど》られていた。頸部には荒々しい絞殺の瘡痕が見え、土色に変色した局部の皮膚は所々破れて少量の出血がタオル地の寝巻の襟《えり》に染み込んでいた。検死のために露出された胸部には、同じ様な土色の蚯蚓腫《みみずば》れが怪しく斜《ななめ》に横たわり、その怪線に沿う左胸部の肋骨《ろっこつ》の一本は、無惨にもヘシ折られていた。更に又、屍体の所々――両方の掌《てのひら》、肩、下顎部、肘《ひじ》等の露出個所には、無数の軽い擦過傷《さっか
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