に亙《わた》って、周到な洞察力と異状に明晰な分析的智力を振い宏大な価値深い学識を貯えていた。
私は喬介とのこの交遊の当初に於てその驚くべき彼の学識を私の職業的な活動の上に利用しようとたくらんだ。が、日を経るにつれて私の野心は限りない驚嘆と敬慕の念に変って行った。そうして間もなく私は、本郷の下宿を引き払って彼の住んでいるアパートヘ、しかも彼と隣合せの部屋へ移住してしまった。それ程この青山喬介と言う男は、私にとって犯し難い魅力を持っていたのである。
六時十分前に、私達はRデパートヘ着いた。墜死の現場はこのデパートの裏に当る東北側の露地《ろじ》で、血痕の凝結したアスファルトの道路の上には、附近の店員や労働者や早朝の通行人が、建物の屋上を見上げたり、口々に喧《やか》ましく喋《しゃべ》り合ったりしていた。
死体は仕入部の商品置場に仮収容され、当局の一行が検死を終わった処であった。私達が其処《そこ》へ入って行くと、今度○○署の司法主任に栄進した私の従兄弟《いとこ》が快く私達を迎えながら、この事件は自殺でなく絞殺による他殺事件である事、被害者はこの店の貴金属部のレジスター係で野口達市《のぐち
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