の係の方の指紋以外に、被害者の指紋が検出されない限り無力です。従って、瓦斯注入口《ガスゲート》の金具又はロープを手で押さえながら瓦斯《ガス》の補充を行っていた被害者は、瓦斯《ガス》が充満されバルーンの浮力が増大するに従って、初めて捲取機《ローラー》を使用しなかった過失に気附いたのです。多分非常に驚いた彼は、急いでロープを捲取機《ローラー》の何処かへ引っ掛けて、バルーンの上昇を牽制《けんせい》しようとあせった事でしょう。が、浮力の増したバルーンは、瓦斯《ガス》のホースを投げ離し、弁を開けっぱなしたまま容赦なく上昇を始めます。被害者は夢中でその上昇を牽制する。自分の体を引き揚げられない様に注意しながら、ロープを握った両手に力を加える。が、太い粗雑なそのロープはいたずらに彼の掌中に無数の擦過傷を残したまま、どんどん延び揚《あが》って行きます。切り抜きの広告文字《サイン》ももう飛び揚ってしまった頃、前に被害者の犯した過失が、ここで恐るべき結果を齎《もた》らします。即ち、被害者の足元に手繰り取られ、蜷局《とぐろ》を巻いていたロープが、大騒ぎをしている被害者の体へ、自然と絡み附いたのです。勿論、彼
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