れたね?」
「ええ、最初バルーンを降ろす時には、修繕するために急いでいましたので――」
 それから喬介は、首飾を司法主任の手から借り受け、ハンドルの上に検出された指紋と、首飾の指紋とを較べ始めた。私も喬介の横へ屈み込んで、両方の指紋を熱心に比較して見た。が、二通りの指紋は、各々全く別個のものである事に私は気附いた。
「ね。君も気附いたろう? ほら、このハンドルの上には、この人の指紋以外に、この首飾の指紋、つまり被害者の指紋は一つも見られない。これでよろしい。さあ、バルーンを静かに降ろして下さい」
 喬介の言葉に、係の男は一寸不審気な表情を見せたが、間もなく作業手袋《グローブ》を嵌めて、捲取機《ローラー》のハンドルを廻し出した。
 一|呎《フィート》。二|呎《フィート》。――広告気球《バルーン》は静かに下降し始めた。
 喬介は拡大鏡を、捲き込まれて行くロープに近附けて鋭い視線をその上に配っていた。が、間もなく三十五、六|呎《フィート》も捲き込まれたと思う頃、広告気球《バルーン》の下降を中止さして、司法主任に声を掛けた。
「犯人を見附けました――」
 喬介のこの言葉に少からず驚いた私達は、
前へ 次へ
全25ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング