喬介の指差した太い麻縄のロープの一部に、深く染み込んでいる少量の赤黒い血痕を認めた。
「これがつまり被害者の頸部の絞傷から流れ出た血痕です。さあ、もうバルーンの用事は済みました。揚げて下さい……ああ一寸待って下さい。全部降しちゃって下さい。まだ一事忘れていた。当っているかいないか、一寸試して見ますから」
 係の男は、呆気《あっけ》に取られたまま、再びクランクを始めた。
 司法主任は、極度の興奮のために歯をカチカチ鳴らしながら、静かに降りて来る広告気球《バルーン》と、喬介の横顔と、そうして係の男の挙動とを、等分に見較べながらつっ立っていた。
 やがて広告気球《バルーン》が降り切って、その可愛い天体の様な姿を私達の頭上に横たえると、喬介は瓦斯注入口《ガスゲート》の弁を開いてその中へ細い手首を差し込み、暫く気嚢の内底部を掻き廻していたが、間もなく美しい首飾を一つ取り出した。
「図太い野郎だ!」
 司法主任が係の男にとびかかろうとした。
「お待ちなさい。人違いですよ。犯人はバルーンです。この軽気球です。ほら、これを御覧なさい」
 喬介が、瓦斯注入口《ガスゲート》の金具、弁、新しく発見された首飾
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