。ほら、こんなにはっきりと検出されました。」
 こう言って司法主任は私達の眼前《めのまえ》ヘ七色に輝く美しい首飾をぶら下げた。成る程、その大粒な連珠の上には、二つの大きな指跡が、はっきりと浮び出ていた。
「ほう、結構ですね」喬介は微笑んだ。
「ところで、済みませんがその水銀とチョークの混じった何んとやら粉を、私にも一寸拝借さして下さい」
 呆気に取られている司法主任の手から、検出用具を借り受けると、捲取機《ローラー》に寄り添って、ハンドルの上へ、灰色の粉を器用な手附きで振り掛け、やがてその上を駱駝《らくだ》の刷毛《はけ》で軽く払い退けた。
「ああ、やっと今気附きましたが、今朝修繕するためにバルーンを降ろした時、瓦斯注入口《ガスゲート》の弁が開いたままになっていました」
 今まで何事か考えていた係の男が、急に口を切ってこう言った。
「弁が開いていた?」
 驚いた様に顔を上げて訊き返した喬介は、暫く考え込んでいたが、
「ほう、非常に有力な証拠だ」
 と、独りで呟くと、再び元の姿勢に戻って、拡大鏡でハンドルの表面を調べながら、係の男に言葉を掛けた。
「君は今朝グローブを嵌《は》めずに此処へ触
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