力が減って、フニャフニャになりながら、今にも墜《お》ちそうに低い処で漂っていました。が、これは天候の荒れた後によくあることです」
「バルーンは夜中にも揚げて置くのですか?」
「ええ、下に降ろして繋留《けいりゅう》して置くのが普通ですが、天候を油断してそのままにして置く時もあるのです」
「バルーンの浮力が減ったと言うのは?」
「気嚢《きのう》に穴が明《あ》いていたのです。もっともその穴は、一月程前に一度修繕した事のある穴ですが――」
「ははあ、それで君は先程気嚢の修繕をしていたのだね。ところで、このバルーンの浮力はどれ位あるかね?」
「標準気圧の元では600瓩《キロ》は充分あります」
「600瓩《キロ》と言うと随分な重量だねえ。いや、有難う」
訊き終ると喬介は、広告気球《バルーン》のロープに着いて揚《あが》って行く切り抜きの広告文字《サイン》を見詰めた。
ちょうど広告気球《バルーン》が完全に上昇してロープが張り切った時に司法主任がやって来た。
「やあ、皆さんそんな処で深呼吸をしているのですか! いや、非常に結構な事です。ところでどうですか。首飾の指紋はやっぱり被害者野口のものでしたよ
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